白内障治療法の開発
現在、白内障の手術加療は、手術機械および眼内レンズの進歩などにより、安全かつ洗練された治療法となっています。しかし、現在、後進国、紛争地域、震災後の過疎化地域など多くの場所では、いまだに設備、医師不足、資金不足などにより白内障手術を受けることが困難な状況にあります。よって、より安価な、非手術的治療が必要です。加齢とともに、水晶体蛋白質の酸化、糖化などの翻訳後修飾が生じ、クリスタリン蛋白質が凝集して不溶性蛋白質に変化し、水晶体の混濁が進行します。白内障の治療は、この発症機序を抑制することにあります。
報告されている未来の白内障治療薬
2015年にオキシステロールの1種であるラノステロールと25-hydroxycholesterol (VP1-001)が、αB-クリスタリン蛋白質のシャペロン活性を増強させることで、クリスタリン蛋白質の凝集を溶解し、水晶体混濁を再透明化させるという研究結果がNatureとScienceに発表されました1)2) (図1)。ヒトのラノステロール合成酵素の変異のある家系では、白内障を発症すること1)、ラノステロール合成酵素の変異があるShumiya Cataract Ratでは白内障が誘発されていることから3)、ラノステロールの投与が白内障混濁を抑制できる可能性があります。この研究結果から、白内障治療薬の誕生が期待されてきました。しかし、現時点では、他施設から、これらの化合物が水晶体混濁を再透明化させたという報告や追試はまだありません。2019年には、in vitroの実験において、ラノステロールや25-hydroxycholesterolなどのオキシステロールは、凝集したクリスタリン蛋白に結合できず、混濁した水晶体を再透明化させる効果はなかったと報告されています4)。これら化合物の抗白内障効果に関しては、まだ不明の点が多く、そのヒトへの白内障治療効果の有効性は証明されていません。
一方、UNR844 (EV06: lipoic acid choline ester 1.5%)という老視予防点眼薬が報告されており、現在、アメリカ合衆国で臨床治験中(Phase 2トライアル開始)です。このUNR844は抗酸化作用があり、水晶体蛋白質のジスルフィド結合を減少させて水晶体を柔らかくさせると報告されています5)。この点眼薬が白内障の抑制効果があるかどうかは不明ですが、核硬化の予防、抗酸化作用により核白内障を予防できる可能性があります。 白内障予防に有効な抗酸化物質、サプリメント、フードファクターの探索
白内障の主原因である酸化ストレスや糖化ストレスの予防や消去をすることで、白内障を予防できる物質の研究開発がすすめられています。大規模疫学調査によると、ルテインやマルチビタミン、ビタミンC, B, Eなども白内障進行抑制効果が報告されています6)
動物実験レベルでは抗酸化蛋白質のぺルオキシレドキシン、フードファクターであるアスタキサンチン、クルクミン、スルフォラフェンに対する白内障進行予防効果がみとめられています7)-9)。これらは、直接的な抗酸化作用のみならず体内の抗酸化能を高め、酸化ストレスから水晶体上皮細胞障害を保護し、抗酸化遺伝子の発現を誘導する作用も報告されています。 日本白内障学会では、白内障研究に興味がある先生方との共同研究や研究協力のご依頼、ご質問をお待ちしております。詳しくは事務局までお問い合わせください。
参考文献
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