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水晶体の基礎研究
1. 水晶体透明性の維持
 水晶体は外界からの光を網膜に結像させるというレンズの役割を果たしているので、何十年もの間、透明性が維持されていなければなりません。水晶体の透明性の維持には、水晶体構成蛋白質の秩序だった構造が関与しています。水晶体の蛋白質は主にα, β-, γ-クリスタリンの3種類の構造蛋白質が主成分であり、α- クリスタリンはαA-, αB-の2サブユニットが、β- クリスタリンはβA1-βA4, βB1-βB3の7サブユニット、γ- クリスタリンはγA-γDとγSの5サブユニットが存在しています。水晶体内ではα- クリスタリンは40量体、β- クリスタリンは2-6量体、γ- クリスタリンは単量体で存在し、互いに相互作用して秩序だったスーパー構造を保持し透明性を維持していると考えられています。
2. 水晶体混濁メカニズムの解明
 白内障は水晶体に混濁が生じて発症する加齢性疾患で、80歳以上になるとほぼすべての人に生じます。なぜ、水晶体の透明性が失われ、混濁に至るのかは明らかになっていません。紫外線被曝、糖尿病、近視、アトピー性皮膚炎等の外的・内的要因によっても促進されるといわれていますが、主たる要因は加齢によるもので、その発症機構はいまだに解明されていません。しかし、紫外線照射、酸化的ストレス、加齢などによって水晶体構成蛋白質に構造変化が生じ、凝集、不溶化、相互作用変化がおこり、これらが水晶体混濁の一因となると考えられています。それでは、なぜ、透明性を保持していたクリスタリン蛋白質が、異常凝集し、不溶化するのでしょうか?蛋白質異常凝集のきっかけは、蛋白質構成アミノ酸の1) 酸化、2) 脱アミド化、3)非酵素的糖化、4)異性化、などが報告されています。
1) 酸化
蛋白質構成アミノ酸の一つであるトリプトファンは280 nmのUVB領域に吸収極大を持っていることから紫外線照射の標的になります。トリプトファンはUVBを吸収するとキヌレニン(吸収極大=360 nm)となり、キヌレニンはさらに酸化されてヒドロキシキヌレニンをはじめとしたキヌレニン誘導体となります。これらはUVAを吸収し、その光エネルギーを活性酸素の形で放出し、過酸化水素、スーパーオキシドアニオン、一重項酸素、その他のラジカルが蛋白質中のシステイン、メチオニン、ヒスチジンなどを分解し、蛋白質の構造にダメージを与えるということが知られています。すなわち、酸化され種々の修飾をアミノ酸残基の側鎖に受けた蛋白質は架橋が生じ、プロテアーゼによって消化されにくくなり、正常な代謝によって生体内から排除されることなく蓄積されると考えられています。
2) 脱アミド化
蛋白質構成アミノ酸のアスパラギン、グルタミンの脱アミド化により、アスパラギン酸、グルタミン酸へと変化することにより、電荷が発生し、酸性アミノ酸が増えることによりその蛋白質自身の性質や、他の蛋白質との相互作用が変化します。
3) 非酵素的糖化
リジンのε-アミノ基と糖のアルデヒドが縮合することによって開始するメイラード反応による修飾物および架橋産物が、加齢に伴い生体内の蛋白質中で蓄積することが知られています。
4) 異性化;D-アスパラギン酸残基の生成
通常、蛋白質はすべて、L-アミノ酸から構成されているために、立体構造が保持されています。しかし、加齢性白内障のクリスタリン中ではアスパラギン酸というアミノ酸が、部位特異的にL-体からD−体に反転し、同時にこれらの隣接アミノ酸残基との結合がα結合からβ結合へと異性化(β-Asp化)していることが明らかとなっています。これらが白内障の病因の一つではないかと考えられています。なぜなら、蛋白質中でのD-β-Asp生成は蛋白質の2次構造や高次構造に直接的なダメージをもたらすからです。すなわち、蛋白質はすべてL-アミノ酸から構成されているために側鎖はペプチド結合の平面に対して、トランスに配置されています。D-アミノ酸が生成されると隣同士のアミノ酸の側鎖はペプチド結合の平面に対して同じ向きに配置されることになり、ペプチド結合に歪みが生じます。さらにα結合からβ結合への異性化が生じるとぺプチド結合の主鎖が長くなります。このような側鎖及び主鎖にもたらす変化が蛋白質の立体構造に波及的に影響を及ぼすため、異常凝集体が生じ、機能低下を引き起こすと考えられます。実際、このような変異の生じている80歳のヒトの水晶体のα-クリスタリン会合体は不均一で巨大な異常凝集体となっており、さらにα-クリスタリン会合体の機能であるシャペロン活性も正常なα-クリスタリン会合体の40%しかないということも報告されています。
表1にこれらの修飾を示すと同時にこれらの修飾が起こると、蛋白質にどのような変化がもたらされるかをまとめました。
白内障は「蛋白質中のアミノ酸の様々な変化」→「蛋白質高次構造の異常」→「蛋白質異常凝集化」→「蛋白質機能低下」→「疾患発症」という一連の過程を経て生じるのではないかと考えられています。
重要なことはクリスタリン蛋白質のどのアミノ酸にどのようは変化がどの程度生じているのかを定量的に測定することです。今日では蛋白質中のアミノ酸1残基ごとにどのような修飾が生じているかを質量分析で容易に行うことができるようになってきました。これらが明らかになることにより、発症時期の予測、防御物質の探索、透明性維持と混濁機構が解明されると考えられています。
 
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